慟哭1
男は、興味なさげに画を見て歩いていた、、、
男は、女が猫なで声で欲しがった風景画を購入する為に、態々この画廊に足を運んでいた、、、
いつもなら、抱くだけの女の買い物等に付き合う事など考えられなかったが、画家の名前を聞いて、その絵を実際に見たくなったのだった、、、
その画家はマック・アレキサンダー、、、
この画廊のみがその絵を扱う事を許された、人前に出る事を忌み嫌う偏屈な奴、、、
だが、その偏屈野郎の産み出す絵は、暖かな日溜まりのような風景で、人気を集めていた、、、
女が矯声をあげて選んだ絵を、眉1つ動かさずに無造作にブラックカードで購入した男、、、
その男が、一枚の絵の前で動きを止めた、、、
それは、男がこの世で唯一愛した女、、、
「牧野、、、」
「お客様? それでは、こちらのお宅へお届けいたします。
お買上ありがとうございます。」
「ウフフ、ありがとう、貴方♪」
と、女が腕を絡めて、自慢の胸を押し付けて来ても上の空、、、
「ああ、こちらの絵は非売品でございまして、、、
あまりに素敵なので、無理を申し上げて期間限定で展示させて頂いております、、、
素敵な絵でございましょう?
マックは、風景画しか描かないのですが、この女性だけは特別なのです、、、」
「このモデルの女性は?」
「ええ、なんでも亡くなった大事な女性だとか、、、」
胸に鉄槌を受けたかのような痛みが走る、、、
「お客様、お客様!?」
「道明寺さん、貴方!?」
気が付けば、病院のベッドの上、、、
西田「道明寺社長? 気が付かれましたか?
今、ドクターをお呼びします、、、」
ドクター「道明寺さん、相当体を酷使なさったようで、次の心臓発作が起きた場合は、命の保証は出来ませんよ、、、
少し仕事をセーブして、体を休める事を考えてください、、、」
司「西田! あの絵っ、、、」
西田「あの絵は、無事あちらのマンションに着いております、、、
今回の発作に関しても厳重な箝口令を敷いてありますのでご安心を、、、」
司「違っ、、、」
西田「では、あの絵は手切れ金の一部でしたか?
でしたら、いつものように、処理いたします、、、
あのマンションと宝石類もお渡ししてよろしいですね!?」
司「ああ、もう良い、下がれ、休みたい、、、」
西田「社長は、非公式に極秘海外出張中と言う事になっております、、、
呉々も病室から出歩きませんように、、、
では、明日参ります、、、」
パタンとドアが閉まると、静かに暗く恐ろしい深淵が迫ってきた、、、
「畜生! 畜生! 漸く見付けたと思ったのに、、、
この世に居ないなんて!
お前は、疾うに俺の手から逃れていたんだな!?
あの時、手放さなければ、あの絵のように俺の側で微笑み続けていてくれたのか?
牧野! 牧野ぉ~~!!」
司の病室のドアに手を掛けたまま、司の慟哭を聞いていた男は、司を見舞う事無くドアに背を向けて姿を消した、、、