愛は惜しみ無く奪い与える1
今日も幼子のヒタヒタとひめやかな足音が、一枚の絵の前で立ち止まる。
幼子のビー玉のような瞳に映るのは、観る者を惹き付けてやまない太陽のような微笑みを浮かべた一人の少女。
裾を大きく広げ、幾重にも重ねた繊細なレースのドレスを身に纏い、猫の脚を模した優美な椅子に身を委ねたその人の、透き通るように白くほっそりとした首には 燦然と輝く淡いピンクの花のネックレス。
この花が日本の花の桜だと、教えてくれたのは、幼子の母の麗。
母親譲りの薄茶色のさらさらした髪を持つこの幼子は、艶々と輝きを放つ黒髪の少女の絵に魅いられたまま、いつものように時を忘れて佇む。
「類様~、類様~、バイオリンの先生がいらっしゃいましたよ~」
「・・・・」
「まあ、またこちらにいらしたんですね」
「・・・・」
「さあ、類様のお好きなカノンを早くマスターしたら、このレディに聴いていただきましょうね」
「幸枝は、おかしなこと言うね!?あのね、この女性は、100年以上も前の人なんだよ!? 聴いてもらうなんて できる訳ないよ。」
「はい、そうでした! でも、幸枝は、いつかこの肖像画の前で類様がカノンを奏でるお姿を、拝見したいんです」
「・・・・・」
「今日のランチは類様のお好きなフルーツグラタンですから、お稽古がんばってくださいね♪」
「・・・・・」